」
村の若者の間では昨日からチルさんの評判で持ち切りである――と彼はいつた。
「帰りがけに、ロータスに寄るでせう?」
更に彼は、いやに丁寧な言葉使ひで問ひかけた。
「あゝ、おれだけは無論寄るね。」
「それをきいたんぢやありませんよ。」
「あゝ、さうか――」
私は点頭き、
「おーい。」
と向ひ側の婦人に言葉を送つた――「みんなが今日は仕事を早く切りあげてロータスに集まるさうだが、君達はそのまゝ帰りがけに寄つてくれるかね?」
婦人達は顔を見合せてゐたが、やがて、はつきりとうなづいたので私はRに、
「O・Kだつてさ」と通じた。
「では、この馬車をこのまゝ此所に残して置くからと……」
Rは、私だつて日本語だけで話してゐるにも関はらず、いちいち言葉の伝達を私に乞ふのであつた。余程深刻なガール・シヤイにかゝつてゐるらしい。
河原を出はづれると眼近かの鎮守の森の傍らにあるロータスで私は二人をまつことにして、Rと伴れ立つた。
ところが河原から社の森ちかくまで歩くおよそ一哩ばかりの道程の間で私は次々に花束を手にした幾人もの若者に取り巻かれて、まるで私自身が歓迎攻めに遭つてゐるかのやうな不
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