割に、眼とか鼻とか口とかが厭に度強《どぎつ》く不釣合で、決して首は動かぬのに、眼玉だけが如何にも人を疑るとでもいふ風に左右に動き、折々一方の眼だけが痙攣的に細くさがつて、それに伴れて口の端が釣上つた。小徳利のやうに下ぶくれの鼻からは鼻毛がツンツンと突出て土堤のやうに盛上つた上唇を衝き、そして下唇は上唇に覆はれて縮みあがつてゐるのを無理矢理に武張らうとして絶間なくゴムのやうに伸したがつてゐた。法螺忠がさつきから折に触れては此方の顔を憎々しさうに偸み見るのは、別段それは彼の癖ではなく、人を小馬鹿にする見たいな私の面つきに堪えられぬ反感を強ひられてゐたものと見えた。そして私のものの云ひ方は、人の云ふことには耳も借さぬといふやうな突つ放した態で、太いやうな細いやうなカンの違つたウラ声だつた。――私は次々と自分の容子を今更鏡に写して見るにつけ、人の反感や憎念を誘ふとなれば、スツポンや法螺忠に比ぶべくもなく、私自身としても、先づ、こやつ[#「こやつ」に傍点]を狙ふべきが順当だつたと合点された。こやつが担がれて惨憺たる悲鳴を挙げる態を想像すると、其処に居並ぶ誰を空想した時よりも好い気味な、腹の底から
前へ 次へ
全30ページ中28ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
牧野 信一 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング