の爽々しさに煽られた。それにつけて私はまた鏡の中で隣りの御面師を見ると、狐のやうな不平顔で、はやく金をとりたいものだが自分が云ひ出すのは厭で、私をせき立てようといらいらして激しい貧乏ゆすりを立てたり、キヨロ/\と私の横顔を窺つたりしてゐるのが悪感を持つて眺められた。彼はこの卑怯因循な態度で終ひに人々から狙はれるに至つたのかと私は気づいたが、普段のやうに敢て代弁の役を買つて出ようとはしなかつた。そして私はわざとはつきりと、
「水流舟二郎君、僕はもう暫く此処で遊んでゆくから、若し落着かないなら先へ帰り給へな。」と云つた。
「ミヅナガレ舟二郎か――こいつはどうも打つてつけの名前だな。あはは。」と法螺忠が笑ふと、スツポンが忽ち聴耳を立てゝ、え? え?、え? と首を伸した。すると法螺忠は、後架へでも走るらしく、やをら立上ると、
「あいつは一体生意気だよ。碌々人の云ふことも聞かないで偉さうな面ばかりしてやがら、余つ程人を馬鹿にしてやがるんだらう。何だい、独りでオツに済して、何を伸びたり縮んだりしてやがるんだい。自惚れ鏡が見たかつたら、さつさと手前えの家へ帰るが好いぞ。畜生、まご/\してやがると、俺
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