鬼涙村
牧野信一

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)寄所《よんどころ》なく

|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)一|瞥《べつ》した

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)担がれる[#「担がれる」に傍点]

/\:二倍の踊り字(「く」を縦に長くしたような形の繰り返し記号)
(例)まあ/\
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     一

 鵙の声が鋭く気たゝましい。万豊の栗林からだが、まるで直ぐの窓上の空でゞもあるかのやうにちかぢかと澄んで耳を突く。けふは晴れるかとつぶやきながら、私は窓をあけて見た。窓の下は未だ朝霧が立ちこめてゐたが、芋畑の向方側にあたる栗林の上にはもう水々しい光が射して、栗拾に駈けてゆく子供たちの影があざやかだつた。そして、見る見るうちに光の翼は広い畑を越えて窓下に達しさうだつた。芋の収穫はもう余程前に済んで畑は一面に灰色の沼の観で光りが流れるに従つて白い煙が揺れた。万豊は其処で小屋掛の芝居を打ちたいはらだが、青年団からの申込みで来るべき音頭小唄大会の会場にと希望されて不性無精にふくれてゐるさうだつた。
 私と同居の御面師は
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