ゐるのは反対党の尻おしに依るものである故、当面の雲行を「或る方法で」乗切りさへすれば、翻然として一時に信用は奪返せる筈だといふ如き自負に易んじてゐる傾きであるが、彼等へ寄せる村人等の反感は寧ろ彼等への宿命的な憎念に発するものに違ひなかつた。スツポンといふのは養魚場の宇佐見金蔵の仇名で、彼は自ら空呆けることの巧みさと喰ひついたら容易に離さないといふ執拗振りを誇つてゐた。彼は松の云ふことを、え? え? え? と仔細らしく聞直して、相手の鼻先へ横顔を伸し、たしかに聞き入れたといふハズミに急に首を縮めて、
「一体それは、ほんとうのことかね。」と仰山にあきれるのだ。――「だが、しかし万豊の芋畑を踊舞台に納得させるのは歴起とした公共事業だ。堀田君と僕は、先づこの点で敵の虚を衝き……」と彼は不図私達に聴かれては困るといふらしく口を切つて、法螺忠や障子の穴へ順々と何事かを囁いたりした。そして、うつらうつらと首を振つてゐた。彼の眼玉は凹んだ眼窩の奥で常々は小さく丸く光つてゐるが、人が何かいふのを聞く度に、いちいち非常に驚いたといふ風に仰天すると、たしかにそれはぬつと前へ飛出して義眼のやうに光つた。その様
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