たりしてゐる場面が見えた。そろひの着物なども出来あがり、壁には花笠や山車の花がかゝつて、祭りの近づいてゐるけしきは何の家を眺めても露はであつた。
「皆な面をもつて喜んでゐるね。万豊の栗拾ひたちが、好くもあんなにそろつて面を持出したとおもつたが――飛んだ役に立てたものだな。」
「なにしろ玩具なんてものを普段持扱はないので、子供の騒ぎは大変ださうですよ。」
 うつかりと夜道を戻つて来た酔払ひなどが突然狐や赤鬼に悸されて胆を潰したり娘達がひよつとこに追ひかけられたりする騒ぎが頻繁に起つたりするので、当分の間は子供の夜遊びは厳禁しようと各戸で申合せたさうだつた。

     三

「水流《つる》さんや、お前えも余つ程要心しねえと危ねえぞ。丸十の繁から俺は聴いたんだが、お前えは飛んだ依怙贔負の仕事をしてゐるつてはなしぢやないか、家によつて仕事の仕振りが違ふつてことだよ。」
 杉十郎は自分に渡された面をとつて、裏側の節穴を気にした。
「俺ア別段何うとも思やしないんだが、人の口は煩いからな。」
 彼は一度村長を務めたこともあるさうだが、日常の何んな場合にでも自分の意見を直接相手につたへるといふのでは
前へ 次へ
全30ページ中17ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
牧野 信一 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング