るところを見ると、何も踊りの晩ばかりが――」
「いゝえ、あれは、たゞの喧嘩だつたんですつてさ。担ぐのは、踊りの晩に限られた為来りなんで。」
「それなら何も僕はあの時のことを非難されるには当らなかつたらうに。」
さうも考へられたが、村政上のことで村人の仇敵になつてゐるJ氏だつたので思はぬ飛ちりが私にも降りかゝつたのであらう、と思はれるだけだつた。
さつきから御面師は、切りと私を外へ誘ひたがるのだが、私はどうも闇が怕くてだぢろいてゐたところ、そんな風にはなされて見ると、たとへ自分がブラツク・リストの人物とされてゐようとも、当分は大丈夫だといふ自信も湧いた。それに踊りの頃になつたにしろ、そんなに大勢の候補者があると思へば、何も自分が必ずつかまるといふわけでもなからうし、そんな懸念は寧ろ棄てるべきだ、加けに多くの候補者のうちではおそらく自分などは罪の軽い部ではなからうか――などゝ都合の好ささうな自惚を持つたりした。
出歩きを怕がつて、万豊などに使を頼むのは無駄だから、これから二人がゝりで夫々の註文主へ収め、暫く振りで倉の外で晩飯を摂らうではないかと御面師が促すのであつた。
「ひと思ひに、
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