尤もそれが村の不文律を裏切つた行為であるといふのを知らなかつた者である故、あたり前なら一先づ見逃さるべき筈だつたが、日頃から私の態度を目して「横風で生意気だ。」と睨んでゐた折からだつたので、これが条件として執りあげられ、やがてリンチの候補者に指摘されるに至つたらしいのであるが、私として見るとそれ位ひのことで狙はれる理由にもならぬとも思はれた。
「いゝえ、そりや、たゞのおどかしだといふことですぜ。今度から、そんな場合を見たら素知らぬ顔で脇さへ見てゐれば好いのだ、気をつけろといふ遠廻しの忠告ですつてさ、仕《や》るとなれば前触れなんてする筈もないぢやありませんか。」
御面師はそれとなく附近の模様を探つて来て、私に伝へた。――「此度の秋の踊りまでには出演者は皆な仮面《めん》を、そろへようといふことになつてゐるんだから、私たちが居なくなつたら台なしでせうがな。それに近頃また日増に註文が増えるといふのは、何も連中は体裁をつくる仕儀ばかりぢやなくつて、脛に傷持つ方々が意外の数だといふんです。仮面《めん》さへかむつてゐれば担がれる心配がないといふところから……」
「でも、いつかのJさんの場合などがあ
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