一杯載せて、もうすつかり寝沈まつてゐた。光りにすかして見ると、或る屋根の石は人が坐つてゐるやうに逞しいものもあり、鳥の群が休んでゐるやうに数々の石を並べてゐるのもあつた。
 提灯の人々が、音無の居る屋根へ昇つて行くのが眺められた。声は、此方が風上だつたから一向にとゞかないが、彼等の物腰で、切りに頑張らうとする音無を促してゐる模様が知れた。――腹を抱へて、大きに笑ふやうな格構をする者、月を指差して「宇宙の神秘」を演説してゐるやうな格構の者、決心の思ひ入れで拳を振つてゐる者達に取りかこまれた音無が、反抗を示してゐる見たいであつたが、やがて、天窓の口から一人宛屋根裏へ落ちて、屋根には三四人の影だけが残つた。それから一人の男が窓口から下を覗いて何やら叫ぶと、屋根の上の男達は一勢に綱を引いて、余程の重量の物を吊り上げにかゝつた。
 彼等は米俵を屋根に運びあげてゐるのであつた。――音無の智慧で、それらを重石の代りに使ふのであるらしく、見る/\うちに屋根の上には俵の数々が家畜のやうに並べられた。そして一同の者が、安堵の胸を撫でゝ梯子を伝ひはじめた頃、私は周囲の葦がざわ/\と鳴り出したのに気づいた。い
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