西瓜のやうな顔をして窓を脱け出て行つた。
二人の去つて行く後姿を窓から見送つてゐると、私の胸は再び轟々と鳴りはじめた。海の遠鳴りが、疾風と化して朧夜の空をかすめながら、稲妻を巻き起して、どツと地に堕ちたかと思ふと、見渡す野面一帯は黒煙を吐いて怒濤と狂ひ出した。森の樹々が一勢に雄叫びを挙げて、凄烈な竜巻を抑へた。――家屋が、宙に浮いて割れ鐘に似た胴震ひの悲鳴を放ちながら、目眩しい回転をはじめた。
「飛んでしまふぞ/\……屋根へあがれ、米俵を家根へ運び出せ……」
音無が夢中で駈け込んで来たのであつた。彼は更に階段を駈け降り、何うして運んで来たものか、数々の私の書物を悲愴な感投詞をたゞ胸一杯に叫びながら、扉口を目がけて階段の下から霰と投げあげるのだ。
蝙蝠の群がおし寄せたやうに数々の書物は、不気味な翼の音をたてゝ、米俵に噛りついてゐる私達の上にバラ/\と落ちた。
その騒ぎで息を吹き返した二人の男は、
「やツ、親爺が来たぞ。」
「金を盗んだことが露見したぞ。」
二人は切りに飛び交ふ夜鳥の群を払ひながら、天窓の綱を引くと、それに縋つていち早く屋上へ逃げのびた。理由は少しも判らぬが、私は
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