経衰弱となつた。今日も二人の手下が、この屋根で石ならべの仕事に従事してゐたところが、二人は突然「吹雪男」の幻に魅せられて、裏の川へ転落したのである。憐れな愚者は、そんな突差の場合でも、その身が軽く宙に飛んでしまひさうな危惧を忘れず、夫々重石を抱へたまゝ飛び込んだので、危く溺死しかゝつたところを自分達が救ひあげたのである。――。
「それ、そこに寝て居ります。未だ暫くは息を吹き返さないでせう。」
さう云つて指差されたので私は、卓子の上の龕灯を執つてその方を照して見ると、二人の男が見るも浅間しい姿で、米俵にがつちりと獅噛みついたまゝ気絶してゐた。
「ひとごとぢやありません――私達だつて今にも吹雪の夢に襲はれて発狂するかも知れないのです。こんな時分から斯う続々と病人が現れるなんてことは、さすがの竜巻村でも十七年来この方のことだといふ噂ぢやありませんか。」
「凶災の前兆でせう。今年の冬は何んな怖ろしい風巻が起ることか……おゝ、不吉なことは考へまい。早く仁王門の椽の下へ走つて、大勝負を打つて、腰に金袋をつけてしまはないと、吹雪男の餌食にされて木つ葉みぢんになつてしまふであらう……」
RとZは、
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