合ふのだよ。」――「賭場荒しの不思議な吹雪男が俺達の後をつけねらつてゐるので、今では彼処の椽の下に穴を掘つて、金さへあれば毎晩のこと……」
「然し君達は、吹雪男の迷信を信じてゐるのか、そして一度でも、たしかに見たことがあるのかね?」
 私は葛籠を背負つたまゝ卓子に腰を降して、意味深気に訊ねた。
「御用のお手先だと思つてゐますよ。――えゝ、たしかに、見ました。大きな鉄の兜を被つた真黒な化物で、吹雪男のこしらへではありますが、あれは勿論、町から回された探偵の変装でせう。」
「音無の手下は、然し未だ余分の賭金を持つてゐるのかね?」
「奴等のことだから何時もイカサマ術を用ひて分捕つてはゐるんだが、吹雪男が現れてからといふものは皆なその化物にさらはれてしまつて素寒貧となり、音無の親爺をはじめ一族郎党は気狂ひ騒ぎでありますよ。今夜は親爺自らが愈々出張つて、乗るか反るかの大勝負を打つ手筈になつてゐるんですが、親爺は何でも資手《もとで》に詰つて八郎丸を苛めに行つたさうですが……」
 その云ふところを聞いて見ると、吹雪男の亡霊に苛まされて音無は癲癇に罹つてしまつたさうだが、主ばかしでなく手下の者も悉く神
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