の有様でこの夜道をたどり、若しや風でも吹き出したらと思ふと、私の魂は地獄へ飛びさうだ。身に、重しを付けて置かなければ、私の体なんて何処へ飛んでしまふか、解らない。怖ろしいぞ。私は、その上大金を持つてゐるのだ。舟を売らせ、網を売らせて、漸く八郎丸から取り戻した大金を……」
「……厭だよう……」
「拝むから貸して呉れ。加《おま》けに村境ひの馬頭観音の前に、風もないのに吹雪男が現れたといふ噂ではないか。いや、其奴は、おそらく番小屋荒しの強盗であらう、吹雪男と見せかけて、あちこちの番小屋を悸して酒を盗み、在り金をさらふ稀代の曲者だ。法度の丁半の賭銭だから訴へ出ることも出来ず……おゝ、白状してしまはう。丁半の連中は皆な私の手下ぢやわい、何を秘さう、鴨をくわへ込んで、濡手で粟の大儲けの上前とりの大親分は私なんだが、あの騒ぎ以来一味の者共は、吹雪男の亡霊にとり憑かれて青息吐息の有様なのだ。――屹度今宵あたりも出るだらう。私は、鎧の下に金袋を抱いてゐれば、突かうが、切らうが、平気となれる。斯うしてゐても、気が狂ひさうなんだ。一刻も早く同勢を呼び寄せて屋根の上へおしあげてしまはないうちは、何時吹き出すか
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