らひのやうだわ。」
「どれ/\。」
 カル子の無遠慮さに自分は、内心肚を立てゝゐたが、遠慮してゐたのである。
 立方体や円錐体などが無茶苦茶に書いてあつた。
 ――規矩準縄
[#ここから3字下げ]
△規――円くするブンマハシ
△矩――四角にする定木
△準――平坦にする定木
△縄――直くする器
[#ここで字下げ終わり]
 そんなことが書いてあつた。
「何でもないぢやないか、何が偉さうさ、こんなもの。」
 自分は、そツ気なく云つた。
「精神の修養?」
 カル子は、負けずに皮肉に云ひ返した。自分を、厭がらせるつもりらしい。
「たゞ――」と、自分は煩はしさうに力を込めて云つた。「たゞ――書いたゞけなんだよ、意味はないんだよ。」
「ぢや、お得意の詩でも書けば好いのに。」
「煩さいなア!」と、自分は怒鳴つた。自分は、今更のやうに己れの愚を見せつけられた肚立しさを覚えたのである。
 カル子は、ムツとして出て行つた。
 自分は、そこに落ちてゐる紙片を拾つて、仰向けの儘読んだ。同じく昨夜自分が、あまりの手持ぶさたで、徒らに書いた紙片である。
 ――蓮月尼は、和歌を以て有名なれども俳諧にも亦堪能にして

前へ 次へ
全12ページ中8ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
牧野 信一 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング