極夜の記
牧野信一
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【テキスト中に現れる記号について】
[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(数字は、JIS X 0213の面区点番号、または底本のページと行数)
(例)※[#「奚+隹」、第3水準1−93−66]
/\:二倍の踊り字(「く」を縦に長くしたような形の繰り返し記号)
(例)くす/\と
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静かな、初秋の夜である。
もう、幾日といふことなく、漫然とまつたく同じ夜ばかりを送り迎へてゐるのだが、夜毎に静けさが増して来るやうだ。
要があつて、斯うしてゐるわけではない、昼間ぐつすりと眠るので、夜は眠れないだけのことである、不思議はないのだ。神経衰弱でもなければ、不眠症とかといふ病ひでもない、簡単な昼・夜転換なのである。沁々退屈した。独りで毎晩、余儀なく斯うしてゐるのは自分のやうな俗ツぽい者にとつては随分の苦しみである。如何ほどこれを続けてゐようとも、この頭に空想の花が咲く筈はない――どうかして、この昼夜の転換を治したいものだ。
完全な昼間に、自分はもう何時にも接したことがない。好きな朝の気分などゝいふものは、忘れてしまつた。
夜は、堪
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