りが暗くなつてから眼を醒ました。そして、何気ない顔をして茶の間へ行つて飯を食つた。父は、居なかつた。母が、不快を圧し秘してゐる様子がはつきり解つた。
 図々しいのかしら? あの父と母の対話を思ひ出しても、少しも心が動じない、退屈な芝居でも見て来た後のやうに、なんにも心に残つてゐない。
 せめて、月でも出てゐると好いんだが、生憎く闇夜である。微かに波の音が響いてゐるだけである。
 静かだ。――同人は、皆な安らかに眠つてしまつた。他愛もない気がする。哀れツぽいやうな気もする。羨しい気もする。何となく可笑しな気もする。……だが、それらの気も直ぐに消えてしまふ。
 ――あゝ、また、この儘明け方まで斯うしてゐなければならないのか!

          *

 悪い癖がついてしまつた。別段、うまくもないんだが、あいつ(ウヰスキー)を飲むと、何となく心がニギヤかになつて来るので、止めようと思ひながら、つい真夜中になると誘惑を感じて盗みに行く。
 そして、斯うしてチビチビと飲み始めるのだ。――だが、もうこれは止さう。親父のやうな酒飲みになつてしまつては堪らないからな。親父も、酒飲みでないと話せるんだ
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