の頃は、出掛けないやうですよ。」
「あいつの耳には入れられないが……」
「…………」
「俺は、この間、聞いて驚いちやツた! あいつは、お前、芸者買ひをするんだぜ。」
「えツ!」――「へえゝゝゝゝ!」
「厭になつてしまふなア、ハハヽヽヽ。」
「そりやア、困つた!」
「然も、あいつは余ツ程のぼせてゐるらしいんだ――先は、お前……」
「それア、さうでせうとも……」
「相手ツてえのは俺は、好く知つてゐる子供なんだ、ついこの間までお酌だつたんだがね、――万歳といふ。」
「名前が! それに、彼が――」
「うむ。」
「それやアさうと、お金はどうしてゐるんだろ。」
「大分溜つてゐるらしいよ。」
「それが気になつて、夜もおちおち眠れないんですね。」
「さうに違ひない。」
「仕方がないから俺、今日片づけて来たんだがね、あいつには知らせないように云ひつけて来た。」
「でも、直ぐに悟るでせう。」
「あいつが、ほんとうに惚れてゐるとすると困りものだな。あんな、半狂ひ見たいな奴だから、ハヽヽヽ、無理心中でもしないとも限らないぞ。」
「まさか――」
自分は、猫のやうに静かに、奥の自分の部屋に忍び込んですつかりあた
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