ィ園が来た。お園を見ると彼は、急に故郷に帰つたらしい懐しさを覚えて、そして、そこに居る父に不平でも訴へに行く、たつた二年も前の時日が、昨日のことのやうに蘇り、
「お園さんのところへ行かうか――どうも、デビル・フヰツシユばかりで面白くねえ。」と云つて、彼女を呆然とさせた。
 ……「迎へに行く振りをしてやつて来たのさ、今まで阿母を相手に飲んでゐたんだが堪らなくなつてしまつてさア。然し何だね、斯んな場合に僕が若し、所謂だね、善良な青年だつたら阿父さん、やり切れないでせう。」
 斯んなことを云つて彼は、父を参らせた。
「何アに俺ア、善良な青年の方が好いよ。親のだらしのないところに附け込むやうな奴に会つては敵はないからね、キタナラしい気がするぢやないか。」と、父も敗けずに笑つた。
「そんなことを云ふと、また詩を書くぜ。」
 もう時効に掛つてゐるので安心して彼は、そんなことを云つた。
「御免だア!」と、父は、大口を開けて叫んだ。
「怒つたね、あれぢや。」
「お前に面と向つて怒りはしなかつたらう、阿母に、だつたぜ。」
「どうして僕に、直接……」
「――止せ、止せ。……おい、お蝶、シンの奴がまた遊びに
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