鏡地獄
牧野信一
−−
【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)反向《そむ》けたかつた
|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)一層|怪《おか》しい
[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(数字は、JIS X 0213の面区点番号、または底本のページと行数)
(例)※[#「奚+隹」、第3水準1−93−66]
/\:二倍の踊り字(「く」を縦に長くしたような形の繰り返し記号)
(例)馬鹿/\しい
−−
[#5字下げ]一[#「一」は中見出し]
「この一年半ほどのあひだ……」
せめても彼は、時をそれほどの間に限りたかつた。別段何の思慮もなく、何となく切ツ端詰つた頭から、ふつとそんな言葉が滑り出たのであるが、そして如何程藤井に追求されたにしろ、何の続ける言葉も見当らなかつたのではあるが、思はずさう云つた時に漠然と――せめても時を、それほどの間に――そんなことを思つたのである。一年半、といふのは、父の死以来といふほどの代りに用ひたいらしかつた、誇張好きの彼にして見ると。
「…………」
藤井は、困つたといふ風な気色を示した。次の言葉を待
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