゙は、ありふれた親父らしく眼をむいて、
「ゴロスケにやつてしまふぞ。」などと、さう云つても一向平気な英一を悸したりした。彼の故郷では梟のことを俗にゴロスケと称び、魔法使ひの異名に用ひた。幼時彼も往々家人から、さう云つて悸されたが、
「ゴロスケとなら一所に住んでも好いよ。」と、云つて祖父を口惜しがらせた。
「ゴロスケつて何さ、田舎言葉は止めて下さいよう。」などと、周子は云つた。彼女は、もうそろそろとほとぼりが醒めて自家との往復を始めてゐた。時々賢太郎も、草花などを持つて訪れて来た。賢太郎は、相変らず吾家でごろ/\してゐるらしいが、外出の時は私立大学の制服などを着てゐた。
 また、或る日彼は、郷里の区裁判所からの書留郵便に接して、刑事に踏み込まれでもしたやうに胸を戦かされた。
 土地家屋競売の通知書だつた。彼の「海岸の家」は、高輪の原田の家の代りに抵当になつてゐて、高輪が残り、これが失はれたのである。
「俺の親父が斯んなことをする筈がない、チヨツ、チヨツ、……あゝ、もう海の傍にも住むことは出来ないのか。」
「何さ、自分の方で訴へて置いて……」
 周子は、洒々としてゐた。彼は、憤る張り合もな
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