を握つて、グルグルツとそれをねぢつた。長い二本の綱が、私の頭の上から先きで一本にねぢれ合つた。彼女は巻き切れなくなるまで、グルグルとまいてしまつた。それが、殆ど咄嗟の間で私は手のおろしやうもなかつたのである。
一杯に綱がよぢれた時に彼女は、キヤツといつて飛びのいた。同時に私の体は、素晴らしい勢ひの風車になつた。私は、必死になつて綱にしがみついてゐた。
「もう、我慢が出来ない、馬鹿にしてゐる、気狂ひ扱ひにして黙つてゐてやればいゝ気になつてゐやあがる――喧嘩となれば貴様なんかには負けないぞ!」――「よしツ!」――「飛び下りて……」――「女だと思つて負けてゐてやつたんだぞ、馬鹿ア!」
それにしてもひどい勢で私の体は回転してゐた。それだけのことを私はやつと胸のうちで叫んだ。――眼がまはつた。
一度とけたが、勢ひがあまつて、綱は更にねぢれやうとした――私は、ハズミをねらつて蛙のやうに飛び下りたが、どうしても直ぐには立ちあがれなかつた。
しばらく呼吸を殺した後に私は、漸くフラ/\と立ちあがつた。何かにすがりつかずには居られなかつたほど、頭と足の見さかひがつかぬほど、グラ/\と眼が廻つてゐたが、私は、「馬鹿ア!」と叫んで、猛然と娘に飛びかゝつた。そして、彼女の頬をめがけて平手を飛ばしたが容易にあたらなかつた。――私は、もう夢中だつた。――砂をつかんだ! 無茶苦茶に投げた! 自分の着物の袖をひきちぎつた! 独楽のやうに狂つた! ……グラ/\と眼が廻つてゐるので暴れるのには却つて都合が好かつた。私は、転んだ。立ちあがると、直ぐに転んだ! 口にも鼻孔にも砂がさん/″\にとび込んだ。――何んにも見えなかつた。私は、ブランコに唾をひつかけた。
いくらか落着いて、眼を見開いた時には、どこにも娘の姿は見えなかつた。
*
至極おぼろ気な記憶である。
「海棠の家」
と私達は、稀にその家を口にする時には、たゞさうよんでゐた。それが私は、はじめその家の姓かと思つてゐたが、ずつと後になつてさうではないことに気がついたくらゐなのである。
庭に海棠の樹が沢山あつたので、その家のことを私の家の人々は、いつ、誰がいひ出したともなく、昔からさうよびなれてゐる風だつた。――その家と吾家との関係も私は知らない。たゞ、花の季節になると、母と私は遥々と花見に出かけるのが常だつた。
私は、あの娘の父を見たことがない。一度そのことを私は母にたづねたことがあるが、たしか母は言葉をにごしてはつきりした返答をしなかつたので、そのまゝにした。
*
庭には、赤毛布をしいた床几が出てゐた。
母が、ありがたさうな手つきで娘の祖父から盃をいたゞいてゐた。――庭の床几には誰も掛けてはゐなかつた。
狂人をいれたことのある座敷牢といふものがある家だ――といふことを私は、祖母だつたか母だつたかから聞いたことがあるが、私は遂々《とう/\》それは見そこなつた。
「もう少したつと、きつとお爺さんはあたしを呼びによこすよ。」
「叱られるの?」
「叱られたことなんて、あたし一遍もないわよ――舞ひをやらされるのよ。」
「舞ひツて? をどりかい?」
「つまらアあない、――をどりみたいなものだけれど。」
「厭だらう?」
「厭さ、もちろん!」
「ぢや、やらなければ好いのに。」
「厭には厭だけれど――そんなに嫌ひでもないんだ。」
「…………」
「面白くはないけれど、あれは私の心を静かにさせる――。あたしがね、つまらない……といふことは嫌ひとは違ふのよ。」
「…………」
「あたし、つまらないことが好きなの、あんたには解らないだらう。」
「解らない。」
「何か、思ひツきりつまらないことはないかしら? そんなことをあたしは考へてゐることもあるのよ、さうして終ひには焦れつたくなつてしまふのさ。」
「何だか、ちつとも解らないな!」
「お客ツて、あたし嫌ひさ。煩さくつて!」
「こんな田舎は、寂しくはないの?」
「寂しいよ。」
「学校にもどこにも行かないの――」
「うん――。行かないの――」
「なぜ?」
「なぜだか……」
「行きたくはないの?」
「だつて知らないもの――」
「近所にも友達はないの?」
「ないわ。」
「なぜ?」
「なぜつてわけはないぢやないのさ! あんたは馬鹿ね……チヨッ! あゝ、もう煩い/\/\。」
突然、娘は、眼を閉ぢて激しく首を振つた。――「……さうだ。もうブランコに乗る時間だ。」
さよなら――といふ風に彼女は、きつぱりと立ちあがつた。話が前後してしまつた。ブランコの騒動はこの後に続くべきはずだつた。
*
私たちは、大抵その家に一晩泊るのが例だつた。
その晩は、私はどんな風に送つたかまるで覚えがない。娘と仲直りをしたかど
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