の中だもの――だが、愉快な形式を尊重して、一枝のミスルトウを、二人がゝりで探しに行くといふ古風な夢を実現して見ようではないか……」
私は、そんなことを云つてフロラを伴れ出して来たのであつたが、梢ばかり見あげて歩き廻つたので、首筋のあたりが変になつてしまつた程なのだが、何処にもミスルトウの小枝も見あたらなかつた。
「あれは、寄生する親木の類ひが、特別にあるのではなかつたか知ら――植物学の書物を見ておくべきであつた。」
私がついそんな嘆息を洩すと、フロラも眉を顰めて「こんなに歩き廻らなければならぬのであつたなら、あたしは橇小屋から馬を借り出して来たものを――」と不満を述べた。
私達は樅の大木の森を、熱心にさ迷ひまはつてゐた。私は、無論、手をのばせばとゞくであらうほどの高さの小さな幹ばかりを見てゐたのだ。
「ほんの手のとゞく位のところに、幾らでもあると思つたが――」
「お前は樹の幹をよぢ登ることは出来るのかしら?」とフロラは訊ねた。
「垂直な幹でさへなければ、そして余り太い幹でなければ……」
と云ひかけたが、私は幾分の不安を覚えた。私は少年の頃、果物をとる目的で高い枝から枝を伝ふてゐ
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