ると、突然枝が折れて地上に転落し左腕を折つた経験がある。それ以来迷信的に木登りを怖れる質が生じてゐた。さうだ俺は、それ以来一度も木登りといふことを試みたことは無かつたのぢやないかしら――不図私は、そんなことを思ひ廻らせてゐる矢先に、ずつと先の方に踏み入つてゐたフロラが、
「ハロー、ハロー!」
と鋭く歓喜の声を挙げた。そして、恰で逃げてしまふ生物を見出したかのやうに慌て、
「早くお出で/\! 見事な一株のミスルトウを、直ぐ其処に見出した!」
と、叫んだ。森閑とした森に、気たゝましい女の声が不気味に反響した。私が駆け寄るとフロラは、
「私は、とう/\幸ひを発見した!」
と仰山な声をあげて悦びのあまり私の胸に抱きついた。
で私が、フロラの指差すところを見あげると、二抱へもある程の樅の木で、寄生木のある枝までは凡そ二丈も昇らなければならなかつた。
私の両脚は感覚を失つた。
「樵夫のところから縄梯子を借りて来たら好からう、そしてあたしはお前の手がミスルトウの枝に触れるところを注意深く見守るであらう、お前が切りとつて来るミスルトウにあたしは、二人の永久の幸ひを祈る最初の接吻を寄せるであら
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