つて行つた。
麓の村から三哩、馬の背で踏み入る山奥の材木工場で、フロラと私はその年のクリスマスを迎へようとしてゐた。山に働く他の凡ての人々は、この宗教に全く関心を持たぬ村人達であつたから、フロラと私がたつた二人で、事務所である丸木小屋で花やかな祭りを催すことにした。二人の者は、凡ゆる力を惜まずに此工場で働くことに依つて、希望に充ちた新生活を展く決心だつたから、この時も町へ帰らうともせず、寧ろ此上もない祝福を抱いて、たくましい原始生活と闘ふてゐた時のことである。
仕事の合間を見て部屋の飾りつけを施すのであつたから、三日前から支度をして、この日の午前《ひるまへ》には凡て整頓されてゐた。関心は持たなくても祭りの悦びだけは迷惑にならぬであらう、楽しい夕べが訪れたならば、サンタクロースには山頭の老人を頼まう、子供達や若者を集めてテープを投げ合はう、村祭りの踊りを所望しよう、此方は私が手風琴を弾くから、フロラは一つお得意のロココ風の踊りを批露すべしだ――プログラムまでがきまつてゐた。
飾りつけが出来た時に不図フロラが、
「ミスルトウは?」
と気附いた。
「何処にでもあるに違ひない、こんな森
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