つて行つた。
 麓の村から三哩、馬の背で踏み入る山奥の材木工場で、フロラと私はその年のクリスマスを迎へようとしてゐた。山に働く他の凡ての人々は、この宗教に全く関心を持たぬ村人達であつたから、フロラと私がたつた二人で、事務所である丸木小屋で花やかな祭りを催すことにした。二人の者は、凡ゆる力を惜まずに此工場で働くことに依つて、希望に充ちた新生活を展く決心だつたから、この時も町へ帰らうともせず、寧ろ此上もない祝福を抱いて、たくましい原始生活と闘ふてゐた時のことである。
 仕事の合間を見て部屋の飾りつけを施すのであつたから、三日前から支度をして、この日の午前《ひるまへ》には凡て整頓されてゐた。関心は持たなくても祭りの悦びだけは迷惑にならぬであらう、楽しい夕べが訪れたならば、サンタクロースには山頭の老人を頼まう、子供達や若者を集めてテープを投げ合はう、村祭りの踊りを所望しよう、此方は私が手風琴を弾くから、フロラは一つお得意のロココ風の踊りを批露すべしだ――プログラムまでがきまつてゐた。
 飾りつけが出来た時に不図フロラが、
「ミスルトウは?」
 と気附いた。
「何処にでもあるに違ひない、こんな森
前へ 次へ
全6ページ中2ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
牧野 信一 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング