るから。」と、私は答へた。
「あれは何処で売つてゐるだらう?」
「あいつを練習するのも一寸興味があるな。」
「あれが、うまく吹ければ行者にだつてなれるだらうね。」
「欲しいなア!」
「江の島では、たしか売つてゐたと思ふが。」
 私達は、そんな話に花を咲かせたりした。
 雨程、思想のない、そして何の落つきも持たない私達を困らせたものはなかつた。雨にならないうちは、気持の鬱屈には何の変りもなかつたが私達は、カラ元気を振りしぼつて、毎日海辺へ降りて、痩ツぽち同志の角力を取つたり、駆け競べをしたり、逆立ちの練習をしたり、時には、自転車の遠乗りを行《おこな》つたり、などして夕暮脚を引きずツて帰ると、まつたく落第書生のヤケ酒のかたちで、好きでもない酒などを飲み、そして時代おくれの学生となつて粗野な酩酊に陥り、毎晩同じな歌を高唱したり、出鱈目な踊りを踊つてゲロを吐いたり、突然あらん限りの声を張りあげて体操の号令を叫んだり、して死んだやうに眠つてしまふのであつた。そして朝は、寝坊の競争をして、午近くになつて花々しく起床して、跣足で海辺に駆け出すのであつた。
 家は、海辺の石垣のそばにあつた。私達は、砂
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