、あまり馬鹿々々しく大きな話は面白くないね。」と、私は云つて鬱陶しい顔をした。――私は、ミス・Fのことを思ひ出してゐたのである。
 雨に降りこめられた私達は、止むなく異様に愚かな饒舌家に変つてゐた、四五日も前から――。二人とも自分では気づいてゐなかつたが、未だ嘗て斯んな種類の饒舌家になつた経験は、一度もなかつた。私達は、晴れた日だけ仕事に出かける漁夫が、雨に降り込められてゐるのにも似てゐた。だが、漁夫には網を作る仕事もあるだらう、炉を囲んで、この次の綱の張り方に就いて仲間の者達と、熱心な計画や研究もしなければならないであらう、私達は、漁夫の無能の弟子に等しかつたのである。
 一体自分達は、この先き何になるんだらう――二人の胸には一様にさういふ不安が蟠《わだか》まつてゐたのだ。怠惰と、浮々としたお調子者、他愛もない失恋、親との不和、そして二人とも夫々別々な私立大学を卒業してゐるのだが、学校では何も覚えなかつた、今では、たつた一つの肩書であつた「大学生」も奪はれて、キョトンとしてゐるより他に能がなかつた。
「何処かに寛大なお伽噺作家がゐて、僕達二人を、その作中の端役にでも好いから使つて呉れ
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