。――藤村も、一寸私に似て、あまり話上手の方ではなかつた。無学で、別段の研究心もなく、世間話は一層不得意だし、そのやうな二人は、さつきからぼんやり二羽の梟となつて膝を抱いたまゝ曇つた海を眺めてゐたのである――黙つてゐるといふことに、互ひに軽い焦躁を感じながら――。だから藤村だつて、他にどんな種類の話材でもありさへすれば、決して「山の音響」などを問題にしたくはなかつたに違ひないのだ。
「悠長だとすれば、あれ[#「あれ」に傍点]もこれ[#「これ」に傍点]も同じやうに悠長なんだね。」
私は、あまり阿呆らしい比較をしたのに気づいて、今度は有耶無耶にそんなことを云つて自らを※[#「革+稻のつくり」、第4水準2−92−8]晦した。
「一寸似てゐるね。だが感じが違ふからね、此方のは、音響の色彩には、それやア区別がないけれど、事実が生々しいんでね。午砲は、君、悠長のシンボルそのものだけぢやないか……」
「いや、僕は、さうでもないな!」と、私は云つた。別段反対をしたかつたわけではないのだが、さう云つてしまつた後に、あれこれとそれに続くべき言葉を探したが、とてもさう直ぐには浮んでも来なかつた。
「だが―
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