がとがめるから……だが、ひとつ俺達も一番改心して、何かの研究でも初めようぢやないか。」
ふざけたやうに、だが殊の他心は塞がれてゐる調子で藤村は、そんなことを云つた。
「…………」
云へば私は、何時ものとほり安価にふざけるより他に術がなかつた。
「暫く運動しなかつたので――山を見あげても、海を見おろしても、眼が眩む……二三日は散歩以外の遊びは出来さうもないね。」
「ぢやア空を見あげたら如何だらう!」
私は、そんなことを云つて仰山に青い空を見あげたりした。
「おい、止せ/\。斯んなところで……」
立ち止まつた私を藤村は、慌てゝ促した。私達は、山に迫られ、一歩《ひとあし》ごとに海が奈落になつて行く崖、潮見崎へ行く細道をつどうてゐた。暫くぶりの晴れた日の為だつたか、私達は、つい見慣れぬ風景に心を惹かれたのだつたらう、別段相談もしなかつたのであるが、ひとりでに脚がそつちへ向いたのである。
西側の山からは、いつもの音響が、その日は晴々しく響いてゐた。
トンネルに差しかゝつた頃はもう私達は、話もなくなつてたゞ漫然と脚をひきずツてゐた。
そこを抜けると私達は、決められた者のやうに欄干《て
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