つきだよ、あゝもう焦れツたい、月だつてオデンだつて何だつて関《かま》はないから、早く水を呉れ/\/\。」
私は、そんなことを呟いだ。――さつき藤村に起されたと思つたのも夢だつたのか?
「おい、もう好い加減に起ろよ、出掛けようぜ。素晴しい天気だよ。」
藤村は、一寸焦れて私の肩をゆすつたので私は、初めて目が醒めた。――夢で思つた通りに綺麗な天気であつた。いや、さつき一度眼を醒まして、知らずにまた眠つたのだらう。
「随分、好く眠るなア!」
藤村は、あきれたやうに笑つた。
「口をあいてゐたらう。」
そんな気がしたので私は、先を越すやうに訊ねた。
「お互ひに馬鹿だね。」と、藤村は笑つた。
暫くぶりの好天気で私達は、一寸アツ気[#「アツ気」に傍点]にとられたやうだつた。――私達は、胸を拡げながら海辺を歩いた。古い徒手体操の号令に、前腕を平らに動かせ、と称ふのがあつた、そのやうに藤村は、両腕をギクギクと曲げたり伸したりしながら意気揚々のかたちで歩いた。
「斯うして俺達が歩いてゐる姿は、如何しても優等学生が勉強の合間に散歩に出たかたちだね……」
「前途有望な二人の青年……」
「止してくれ、気
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