い道が一筋、ずつと右手の方に突き出てゐる岬の中腹を縫つて、指先で弧を描いた程に小さいトンネルの中に消えてゐるところまで視線を追うた。
(あの半町足らずのトンネルは、たしか環魚洞《くわんぎよどう》とかといふ物々しい名前の名所だつたな? あれをくゞり抜けたところが、潮見崎《しほみざき》? うむ、さうだ。――今度は未だ彼処には、一度も行つて見なかつたな。晴れたらひとつ藤村を誘つて、あの道をずつと先きまで歩いて見ようかな。)
 湾に添うて拾つて行くと、ゆるやかな螺状の道は次第に断崖の中腹にのぼり、環魚洞が頂点なのである、其処が岬の突端で道は断崖を指し、まさしく絶壁を見降してゐる――私は、その出鼻に立つて、背中合せの断層を見あげ、脚下数十丈の海を見降ろすことを想像すると、にわかに足の裏がムズムズして、身は忽ち鞠になる震へを覚えた。
 いつか藤村が、あの岬を指差して自転車の遠乗りを主張したのであつたが、その時も私は同じ震へを覚えて膚《はだへ》に粟を生じ、頑として車輪を反対の方角に向けた位である。
[#横組み]“Hurrah!”[#横組み終わり]
 さうだ、私は、Flora の感嘆の声を思ひ起したの
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