な気がしたに違ひないのだらうが、私を笑はせ鬱気を払ふために強ひてあんな冷かしを云つたのであらう、私の心には今はそれ程の努力もない……。
[#横組み]“Hurrah”[#横組み終わり]
私は、ふとそんな声を聞いた。――私は、悸《をど》された。胸がひとつ不気味に鳴つた。振り返つて見ると藤村の寝顔には、変な微笑が浮んでゐる。彼が、口のうちで何かわけのわからぬ寝言を呟いたのであつた。――それを私は、そんな風に聞き違へて感じた、といふより、汽車の轍の音や時計の音が聞きやうに依つては様々な種類に聞かれる、あれと同じものだつたのである。例へば、コケコッコーでも、カック・ア・ダッダルドウでも※[#「奚+隹」、第3水準1−93−66]の声だらうし、太鼓の音を、ドンドンドンと吾々の幼時から云ひ現はし慣れてはゐるが、ラッバダブ・ラツバダブでも別段に反対の称《とな》へようもない――まつたく私は藤村の寝言の叫びを[#横組み]“Hurrah!”[#横組み終わり]と聞いたのである。
おやツ! と、私は思つた。冷くて甘いものに一閃胸を撫でられた。
(……なアんだ! Flora のことか。)
私は、その窓の下の細
前へ
次へ
全34ページ中15ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
牧野 信一 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング