馬車を持つて迎へに来て呉れるから大丈夫ですわ。」
「妙さん、重いでせう。若し、もう苦しかつたら三人を此処に置いといて、走つて行つて、お酒を持つて来て飲ませてやりませうよ。さうすれば三人共直ぐに勢ひがつくわ。」
「妾《あたし》は平気ですわ、それより奥さんこそ……」
「あたしだつて平気よ。もつと速く歩いたつて大丈夫よ、うちの人だつて、Hさんだつて、とても軽いんですもの……」
「Rさんも軽いわよ、御覧なさい、大方妾におぶさつてゐるぢやありませんか。」
「父さん、大丈夫起きてゐる?」
「だつて、父さんだけが今晩も甚太郎さんの相手なのよ。甚太郎さんの義太夫会がいよ/\眼近かに迫つて、今夜から、妾の家で彼の人は、その練習なんだけれど……」
「まあ!」
「ほんとうなら、さつきだつて、これ位ひのことで村の人だつてあんなに騒いで見物になんて来るわけはないんですけれど、まご/\してゐると甚太郎さんにつかまるので、それで此方の騒ぎを好いことにしてドツとおし寄せて来たんですよ。」
「ぢや早く帰つてやらなければ、父さんにも気の毒だわね。」
「えゝ――だから、妾、仁王門の処まで行きついたら、父さんを呼ぶわよ。――
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