が、次の悲壮な場面に接して、水を打つたやうに寂とした。
二人の闘剣者は、私の声に気づくとにわかに心持にたるみが生じたかのやうに、そして亢奮の絶頂から脚を踏み滑らせて、転落する滝のやうに激情の花弁を飛び散らせて、諸共にワツと泣き出すと同時に、手にした剣を投げ棄て、私の胸に飛びかゝつた。
「村から村へ駈け廻らう――KATA−KOMAS の剣を捨てゝ……」
「飲んで騒いで――アウエルバツハで夜を明さう、KOMAZEIN……」
この二人のうめき声に接すると私も、にわかに胸が一杯になり、楯を大きな翼にして二人の者をしつかりと抱き寄せて、
「飲んで騒いで、飲み明して――明方を待つ間もなく俺達はこの村を出発してしまはうではないか。おゝ、よし/\、俺が悪いのだ、何も彼も俺が悪いのだ、勘忍してくれ/\!」
と咽び入つてしまつた。――この楯の表面には「コモイダスの心を知る者あらば共に飲まん、共々に打ち伴れて吾等の旅を続けん。」といふ意味のギリシヤ文字が誌してあつた。この楯は、つい先頃村の酒場で、バツカスの灌奠祭を行ふた時の余興の仮装舞踏会に、私達三人はスパルタの兵士に身をやつして出場したのであつたが
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