弁明の言葉など見つかる筈はなかつたのですが……。が、私も男だ、こんなこと位ひで震へてしまつて何うなることだ、この恥は忍び得ぬ――と力を込めて、神を念じ、二つの主張の一方に明白な裁断を降《くだ》さうと、眼をつむりましたが、以何にしても「村から村へ」が事実か? 「飲んで騒いで」が正統なのか? 決して判断がつかないのであります。――そして私は、せめて、この醜い頤ばたきをごまかしたいと思ひながら、日頃、生真面目なことを云はなければならないときとなると稍ともすれば口に吃音の生じる癖のあることは皆に知られてゐるから――さうだ! といふ程の逃げ腰で、
「僕にも水を一杯呉れ、ルルさん!」
と云はうとすると、それが、真の吃音になつて、容易に、それすら云ひ終ることが出来ません。
「水? 水! 水――」
「知りませんよ。あなたのやうな大嘘つきの意久地なしなんて――に、水一杯の御用でも御免蒙るわ。」
「妻はゐないか? 妻、妻、水を……」
「あなたは、昨べ、あたしとランプの話をした時のことを寝言に喋舌つて、それを奥さんが聞いて、大変|憤《おこ》つてゐたわよ、お気の毒だわね。今夜帰つたら何んな酷い目に遇せてやら
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