なつてしまふから到底壊れやすいランプなどをブラさげて歩くわけにはゆかないからです。――「持つて行きますわ、どうせ提灯をつけてお送りするんですもの。」
私は勿論ランプが気に入つて眺めてゐたわけではないのですが、断はるのも失礼だらうと気づいて、にわかに気分を変へ、
「僕の大好きなルルさん――」
と云つて娘の手を執り、
「有りがたう。このランプが僕の部屋に灯《とも》つたら何んなにか嬉しいことだらう。」と答へてしまひました。で娘も悦んで早速そのランプを私の部屋の天井に吊して呉れ、
「このランプが点いてゐる時は、あなたがあなたのお部屋で、あたしのことを考へてゐて下さる時――といふことのしるしとして、此処から、あなたに戴いた眼鏡で眺め――あたしは、あなたのためにお祈りすることにしますわ。」
と云ひました。すると、その時私は、斯んな素晴らしい綺麗な言葉を私のために決して婦人から聞いた験《ためし》のない私は、日頃物語のみで読み魂をあげて切望してゐるお姫様の前に心臓をさゝげる幸福な騎士になつてしまつた私は、嬉しさのあまりにわかに胸がふくらみ唇を激しく震はせながら、
「おゝ、このランプは、この先、凡
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