つもりで置いて来たのだつたが……」
「何うしてそんなつまらぬ真似をしたの、これがなくなつたら貴方は風邪を引くにきまつてゐるぢやないの。」
「欲しいのだが、呉れろ! と云ふのは厭だ、君が若し棄てたら僕が拾はうと思つてゐるんだ――そんなことを村長が時々云ふことを思ひ出したので――」
「妙な村長ね。」
「僕が風邪を引かないためには、この代りにマイワイをやらうといふのさ。」
「マイワイつて何?」
「大漁の時に漁師に配られる――それ、あの裾に色彩りの綺麗な七福神の踊りなどが染め出してある丹前風の上着さ、例のハツピーコートさ。」
「去年のクリスマスにミセス・フロラに贈つた、あれ! 仮装舞踏会で注目の的になつたと喜んで、それを着た写真を寄したあれでせう、あれなら、あたしも欲しいな。あたしは仮装ぢやなくつて実用に使ふわよ。村なら平気だわね。それにどうせ今年だつて春の外套なんて買へないだらうからな。」
 妻と私は、私のガウンのことから斯んな話に移つたこともあつた。
「夕暮時になると、未だ仲々薄ら寒いわね。」
「おゝ、可愛想に――さあ/\、もつと肩をぴつたりと此方に寄せて、すつかりこれにくるまらなければい
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