――」を合唱して私を抹殺した。その時誰かゞ立ちあがつて私を指差し、
「君は、さつきからあのエヂプトの大王の名を、フツフ、フツフ! と称んでゐたがそいつは大きな間違ひだよ。そんな笑ひ声見たいな王様の名前があつて堪るものか。」
「ギゼーのピラミツドのうちで現在一番大きいのはフツフ王のそれだ。フツフ王の彰徳記念碑《オベリスク》は五千年の風雨に曝されても、今尚厳としてエヂプトの空にそびへてゐるのを知らないか、酒樽奴!」
と私は向ツ肚を立てゝ奴鳴つた。「Khufu のKはサイレントになるにきまつてゐらア!」
「間抜野郎!」
と相手も鋭く怒鳴つた。この男は、私がさつきから時々調子を脱《はづ》して、思はず演説口調に走つてしまふ度に、堪らない/\! と一番鋭く疳癪の舌を鳴してゐた無頼漢であつた。私にしても、さつきからその男の最も露骨な舌打ちに、更に疳癪を感じてゐたところだつたのだ。「Kがサイレントだつて! 笑はせやがらア。中学校の歴史の教科書でも見直して来やがれ、クツフと発音するにきまつてゐるよ。」
「手前の中学時代の教科書に何んなフリ仮名がついてゐたかは知らないが、俺の斯んなにも厚い、大きな――
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