」と私は云つた。「一寸僕に……気に喰はないところがあつてね……」
「何いつてんのさ。そんなことは如何だつて好いぢやないの?」
「いや……彼奴はヤンキー・ガールで気持が悪いんだ。」
 私は、突然そんなことを云つた。たつた今あれ程までに激賞したFである。すると照子は、(何も私を目安にしてFに競うたのではない、道を往く美しい人に反感を持つ程度の反感を私の言葉でそそられた後だつたので)軽く、卑しい自尊の眼を輝かしたのだ。だからほんとなら、私の失言をとがむべき筈のところを忘れて、
「やつぱりね……」と、快心の点頭きを示した。
「だから三十分も話してゐると、退屈してしまふよ。」
「さうかね……」
「髪の毛が、厭に赭かつたり、眼玉が菓子のやうに青いのも、一寸は興味があるが、よくよく眺めてゐるとなんとなく人間離れがしてゐるやうな気がしたり、此奴どんなことを思つてゐるか? なんていふ気がして、薄気味悪くなつてくるぜ。」
「純ちやんも随分幼稚だわね、ホッホッホ。」と、照子は嬉しさうに笑つた。
「そして彼等の習慣は、あまり物質的で気持が悪くなるんだ。」
「そりやア、妾は好いと思ふわ。」
 照子が、有頂天にな
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