つて気取つた非難を私に浴せた。「純ちやんなんての趣味は、野蛮でお話になりやアしないわ。」
「そりやアさうだらうが、ああいふ婦人の相手はとても辛いね。」
 私は、ほんとのことを云つてゐたのだが、都合の好いことには、照子は、私がFを僭越な意味で説明してゐるんだ――と誤解してゐた。で私も、つい嘘に花が咲いて、調子づいて、かうは云ふもののFと自分は愛し合つてゐるんだ、などと云ふ途方もない思はせ振りを示したりするのであつた。
「そこへ行くと妾なんぞは、心が拡いことよ。西洋人であらうと、純ちやんであらうと同じ心で附き合へてよ。妾は、いつそ外国人と結婚がしたいわ。」
 結婚――そんな言葉を聞いただけでも、私の胸には甘くて熱い煙りがムッと渦を巻いた。――照子は、立ちあがつて縁側の椅子に腰を降して、海を眺めた。私は、醜い焦躁を振り払つて、やつぱり海の方へ眼を投げた。そして細く詠嘆的な声で、
「波がおだやかだね。」などと云つた。
「Fさんは今日は留守なの?」
「親父達と箱根見物に行つた。」と、私は物憂気に答へた。

「お前は英文学を研究してゐるさうだが、英会話は不得意らしいね。」
 或る日Fは、そんな質問
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