或る日の運動
牧野信一

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)陽《ひかり》

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
   (数字は、JIS X 0213の面区点番号、または底本のページと行数)
(例)1[#「1」はローマ数字1、1−13−21]
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「妾のところにも、Fさんを遊びに連れてお出でな。」
 さうしないことが自分に対して無礼だ、友達甲斐がない――といふ意味を含めて、照子は、傲慢を衒ひ、高飛車に云ひ放つた。F――を照子のところへ、連れて行くも連れて行かないも、あつたものではなかつたのだ、私にして見れば――。だが私は、自分の小賢しき「邪推」を、遊戯と心得てゐた頃だつた。愚昧な心の動きを、狡猾な昆虫に譬へて、木の葉にかくれ、陽《ひかり》を見ず、夜陰に乗じて、滑稽な笛を吹く――詩を、作つて悲し気な苦笑を洩らしてゐた頃だつた。
「…………」
 で私は、意地悪さうに返事もしないで、にやにやと笑つてゐた。照子が、そんなことさへ云はなければ、此方からそれ[#「それ」に傍点]を申し出たに違ひなかつたのだ。
「毎日何をしてゐるの?」
「どうも忙しくつ
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