てね……。何しろFは珍らしい客だからね……」と、私は惰性で心にもないことを呟いて、恬然としてゐた。
「よく、純ちやんに相手が出来るわね?」
「そりやア、もう……」
私は、どういふわけか照子の前に出ると、ほんとのことを云はなかつた。お座なり[#「お座なり」に傍点]ではなかつた。寧ろ、苦しい遊戯だつた。
「照ちやんから遊びに来たら好いぢやないか、僕はFとなんか往来を歩くのは厭なんだよ、何しろ異人の娘だからね、往来の人に一寸でも眼を向けられちや堪らないからね。」
「さうでせうとも、スラリとした人と並んで歩くのは気が退けるといふ質の人だからね、あんたはよッ!」と云つて照子は私を嘲笑した。照子は「スラリとした人」に自らを任じてゐるのだ。
「Fは、まつたくスラリとしてゐるね。あれが若し日本人だつたにしろ僕は、気がひけるよ。まつたく僕は、Fと話をしてゐると酷く気がひけてならないよ、そして彼女は、快活で、聡明で、邪気がなくつて……」
照子は暗に、妾と一緒に歩くのが気がひけるんだらう、妾はスラリとしてゐるし、お前はチビだから――といふ厭がらせを与へたのであることを悟つた私は、反対にFを激賞することで
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