を顧みて云つたりした。
「純ちやんの仕事ッて何さ?」
「照ちやん達と、こんな風に話しをしてゐることと反対なものが僕の仕事なんだよ。」
 私は、自分でも有耶無耶ながら、さう云つて何か漠然と別のことを考へたりした。
「ジュンの仕事は、朝寝坊と夜更しだらう。」
 Fは、爪を磨きながら呟いた。照子は、一寸敵意を含んだ眼つきでFの指先を眺めた。
「まア、てんでんに閑な人はバカな日ばかりを送つてゐたら好いだらうよ。――どれ、また仕事の続きに取りかからうかな。」
「今晩妾の家で、Fさんをお客にしてお茶の会をするんだが、ぢや純ちやんは来られないね。」
「大嫌ひだ。仕事がなくつたつて御免蒙る。」
 私は、さう云つたが一寸羨しかつた。さういふ家の中の会合なら、また何か出たら目をやつて、彼女達の眼を牽くやうなことが出来ないわけでもない。この間の晩などは、私は調子に乗つて長持の中から虫臭い裃を取り出して、
「われわれの国の昔の風俗習慣を見せてやらう。」とFに云つて、刀を持つて立ち上つた。「危いよ。」と、照子が云ふと、私はここぞと云はんばかりに、見物を次の間にさがらせ、十畳間の真中に突ッ立つて、
「ヤア!」と叫
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