彼は、それが得意だつた。足先をそろへていつまでも蝋燭のやうに立ち続けた。そして、ゆるやかな弾道を描いて、地上に降りた。山村は、続いて頂から、上向に寝て脚から先きに落ちる芸当をやつた。
「ジュンも何かやつて御覧な。」と、Fが云つた。私は、さつきからその言葉を聞くことばかりを怖れてゐたのだ。
「純ちやん、機械体操をやつて御覧な。」
「……」――「僕は、遊動円木が好きだ。」
「遊動円木なら、妾だつて出来るわよ、ねFさん。」
Fは、笑つて点頭いた。山村と龍二は相競うて運動を続けてゐた。――梁木渡り、幅飛び、棒飛び、……何れも悉く見物を感心させぬものはなかつた。Fも、照子も、私も手に汗を握らせられた。
二人は、汗でシャツをぬらせて私達の傍に来て休んだ。Fは、山村にいろいろ運動に関する質問をしたり、激賞したりして山村をてれ[#「てれ」に傍点]させた。
「ああ、暑い暑い――海へでも入りたいな。」と、龍二は云つた。
「今頃の海の水は、却つて暖いよ。俺この間、一遍入つて見た。」
山村は、無器用な手つきで煙草を喫《ふか》しながら呟いだ。
「もう!」と、Fは眼を丸くした。
「僕は今年の冬は、三度も泳い
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