ィックな気風は余り好かない、……ミリタリズムは嫌ひぢやないんだが。」
 私は、そんなことを呟いてゐたがFにも照子にも聞えなかつた。
 山村は、最初に逆車輪を演じた。私も、その妙技には沁々と感嘆したのだが、Fと照子が余り熱心に見物してゐるのに反感と嫉妬を覚えて、仲間の技術を監視してゐるといふ風な冷かな眼で眺めてゐた。
 たくましい山村の腕に握られると、鉄棒の方が飴のやうに自由になるかのやうに見えた。そして張り切つた筋肉が、ピシ、ピシと快い音をたてて鉄棒に鳴つた。山村は、多少の恥らひを含みながらも、いつの間にか自分の技倆に恍惚として、息を衝く間も見せず鮮かに鉄棒に戯れた。天空を飛翻する鳶の如く悠々と「大車輪」の業を見せて、するりと手を離したかと見ると、砂地に近いところで伸々とした宙返りを打つた。
「おお、キレイだ。」
 Fは、思はず叫んで照子と私を見た。
「どうも、まだいかん。」といふ風に山村は、得意らしく首をかしげて笑つた。山村の勇敢な、そして謙遜な姿は、男の私が眺めてさへ恍惚とした。
「龍ちやん、今度やつて御覧!」と、照子が叫んだ。――龍二は、十二階段の頂上に駆けのぼつて、倒立をした。
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