下の畑やら、上の丘などの青い樹を指し示したりした。
「純ちやんところの蜜柑畑はこの辺ぢやなかつたかしら。――あの花を折つたつて構はないだらうね。」
「ああ構はないとも、よそのだつて構ふものか。」
「龍ちやん、あのハチスの花をとつてお出でよ。」と、照子は弟に命じた。龍二は、懐ろからジヤックナイフを取り出して、二三本のハチスの花を切つて来た。
「Fさん、山村さんのボタンに一つさして上げなさいな。」などと照子は、噪いで云つた。山村は、赭い顔をして、細い上りの道を駆けて行つた。Fは、ポケットからのべつに菓子を撮み出してムシャムシャと頬張りながら「オレンヂのシイズンになつたら、また妾は訪れませう。その時分はジュンは居ないだらうが、あなたと、あなたの龍二が居れば充分だから。」と云ひながら龍二の肩を叩いたりした。
丘の中腹を一周して、私達は帰り路についた。私達は中学の裏から運動場へ出たのである。
「ここが皆なの出た中学なんですよ。」と照子は、Fに説明した。
「おお、ナイス、グラウンド!」
「山村さんと龍二は、このグラウンドの人気者なんですよ。」
照子は、さう云つて、運動会の時の話などをした。日曜
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