な。」
七十歳の祖母は、そんなことを云つた後に仏壇に向つて、
「ナム・アミダブツ。御先祖様、何卒純一の身をお守り下さい。」と、祈つて仰々しく礼拝した。母方の祖母である。私は、F達の前で自分が因循であつたことに秘かに冷汗を覚えながら、却つて自分を潔癖者の如く吹聴して、父を罵り、祖母達の歓心を買つたのだ。――一年ばかりの間に、Fは非常に日本語が巧みになつてゐた。そして私とも交際出来るやうになつた。
「海のシイズンになつたら、お前は私の家族と一緒にK――へ行く約束だつたね。」
「ああ。」と、私は困つた返事をした。この間そんな話が出た時、私はFと行く海水浴場の花やかさに浮かされて、俺は水泳なら相当のチャンピオンだ……などと、出たら目な高言を吐いたのである。
「お前と二人だけぢや寂しいんだが、お前の友達のミス・テルコは私達と一緒に行つては呉れないだらうか?」
「行かないだらう、第一彼女の性質は因循で面白くないよ。」
私は、照子のことを蔭で、あらぬ悪態をついてやることが面白かつた。
「インジュンとは、どういふ意味なの?」
「つまり、Fと正反対の性質なんだ。そして馬鹿馬鹿しいカントリー・ガールだ
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