のボートレースは何時《いつ》何処であるの?」
「未だそんな話か!」彼は太い溜息を洩した。そして彼は如何にも面倒臭さうに顔を顰めて「スミダ川、スミダ川。」と云つたきり、憤ツとして面をそむけた。
「お前は普段スポーツが好きだと云つてゐるが、そんならお前は何のチャンピオンなの? 私のやうに馬には乗れないし、テニスは私の不熱心な弟子だし、ビリヤードは二十だし、思索は悉く妄想で、おまけに無学で……」
何とでも云へ/\――彼は、眼をつむつてゐた。
「私の友達に紹介したくも、余りに行儀が悪く、婦人の前ではお茶も飲ませられない。……それにピクニックはおろか、公園の散歩すら不得意!」
「水泳なら相当のチャンピオンだ。」彼は、口惜しさのあまり斯う叫んだ。これなら大丈夫だ――と彼は思つた。うつかり他のことを云ふと、試される怖れがあるが、水泳なら今は五月のことだし、どんな法螺を吹いても失敗するおそれはない――咄嗟の間に、もう頭がすつかりぼんやりしてゐた為か、これもうつかり彼は叫んだのだつた。
「おゝ!」
Fは雀躍《こをど》りして彼の手を取つた。「べリイブライト、べリイブライト、さつきの私の罵りを許してお呉
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