夢のやうに思ひ出して、彼は酷い冷汗を覚えた。
……昼間になつて、いか程白々しく鹿爪らしい顔をしてゐたつて、夜になればあんなにも他愛なく酔ツ払つて、あんな騒ぎを演じるんぢや、これはどうもFに軽蔑されるのも無理はない……彼は、後悔の念に駆られながら密かに呟いた。「俺のやうな柄の男が、第一西洋の娘と交際するのが間違つてゐるんだ。だが今更そんなことを考へたつて始まらない、兎も角もつとテキパキと、ニッカボッカの如く晴れやかに振舞つてFの度胆を抜いてやらなくては口惜しいぞ……」
「シン、シン、シン! 眠つちや駄目だよ。」
Fは、けたゝましく脚を踏み鳴した。
「一時間の猶予を与へて呉れと頼んでゐるぢやないか。」
「厭だ/\。――あゝ、私、キュウカンボが食べたくなつたから、庭へ降りて剪つて来てお呉れな。」
彼は、よくは知らないが、また失礼だなどゝ云はれるのも厭な気がして、異人流を重んじてやるつもりで、厭々ながら花鋏を取つて、小さな裏の畑から胡瓜を剪つて来た。
Fはナフキンで、ぞんざいに胡瓜を拭ふとその儘、白い歯をむき出して美味《おい》しさうに食べた。Fは、手持無沙汰になると丁度彼が煙草でも喫ふ
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