て、昔ながらの塗のはげた行灯を用ひてゐた。その家の中が、Fの来訪以来奇妙な白さを醸した。――それでも彼が勉強机にセセッション型のテーブルと椅子を用ひてゐたので、それを座敷の真中に持ち出してクロースを懸けて、食卓に代へ、Fは彼などの名も知らない西洋花を買つて来ては毎朝取り換へて、飾つたりした。父は建具屋に頼んで、涼み台のやうなベッドを拵へさせたり、自分が外国に居た時用ひた色のさめた羽根蒲団を持ち出したり、便所の腰掛をつくつたり、座敷の隅に洗面台を据ゑたり、床の間の懸物を鏡と取り換へたり、風呂場に錠を付けたり、台所には怪し気なオーブンを据ゑて、Fが伴れて来たアマさんが不平さうな顔で料理を拵へたりしてゐた。――それでも、どうやらFの起居に堪へられるだけの設備を整へたが、まるで家の中は奇術の舞台のやうになつてしまつた。
「ほんとに僕は、眠くて堪へられないんだ。許してくれ、一時間でいゝから眠らせて呉れないか? Fと一緒に朝飯を食べるといふことは僕に取つては何よりもの努力なんだよ。」
彼は、さう云ふと頭をかゝへて再びどかりと椅子に落ち込んだ。――前の晩の夜更し、あの馬鹿々々しい騒ぎ……そのことを
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