」
正面でばかし、斯んなに無神経で饒舌のヤンキー娘に物を云つてゐるのは馬鹿々々しくなつたので彼は、こゝで気持を転換させて、狡猾に笑ひ返した。Fも、到頭噴き出して了つた。
「だが――」彼は、もう一息圧へて置いてやらうと思つて、真顔になつて「だが、僕はFが想像してゐるやうに、決して柔順なFのピエロオぢやないよ。」と云つた。
「もういゝ/\。」Fは、唇の端で軽く笑つて、彼の肩を叩いた。
Fは、彼の家の珍客だつた。彼の父が米国に居た時Fの父とは学校からの友達だつた。Fの父が横浜に店をもつてゐたので、二年も前からFは日本に来てゐた。前から彼は、Fと知り合ひだつたが、外国人に対して非常に臆病な彼は、つい近頃までFと親しめなかつた。――Fが彼の家を訪れたのは、これが初めてだつた。もう一週間近く滞在してゐた。
そんなお客が来るんなら私達は逃げ出さう――家の中で牛肉を煮ることすら決して許さない彼の祖母は仏壇に錠を下して、彼の母を促して温泉へ行つてしまつた。彼の父は、忙しくて殆ど家を空けてゐた頃だつた。
彼の家は、草葺家根の古い家だつた。長押には煤のかゝつた黒い槍が懸つてゐた。寝る時には電灯を消し
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